いざリオへ! 注目の激戦に、誰もがエキサイトした熱き2日間。

2011年の世界チャンピオンを生んだワールドクラスのジャパンファイナル。今年、次代のバーシーンを牽引する覇者となるのは誰なのか?その結果を見届けようと「ホテルグランパシフィックLE DAIBA」(東京・港区)の会場には各メディアをはじめ、多くのギャラリーが詰めかけた。今回は10人中7人がファイナル経験者とあって昨年以上に混戦模様。まさに「今年はわからない(大会関係者)」というスリリングな展開の中、世界大会の開催地ブラジルはリオ・デ・ジャネイロへの切符を賭けて、4つのチャレンジがスタートした。

Food Matching Challenge 世界大会に向けてブラジルのメニューに挑戦。

 まずは5種類のフードからファイナリスト自身が2つ選び、それに合ったカクテルを1杯ずつ創作するチャレンジ。今回は世界大会の開催国ブラジルの料理が並んだ。ファイナリストたちにメニューが明かされるのは本番直前。試食後25分間でカクテルを考え、下準備を済ませる。そして審査員がお客様として座るカウンターへ。5分間でツールの用意をしたあと10分間のプレゼンテーションに臨む。そこではフードとカクテルの相性やブランドの特長などを説明しながら、技術をはじめ、オリジナリティやクリエイティビティを印象づけなければならない。このチャレンジで部門賞を獲得したのは、中垣繁幸氏(BAROSSA cocktailier/岐阜)。ブラジルのチーズパン「ポンデケージョ」に、シロック(ウォッカ)と熟成ワインやバルサミコ酢などをあわせた、その名も「セパージュ・シロック」を。「ブラジル風練乳プリンとプラムのコンポート添え」に、カラメルとの相性が抜群のラム、ロンサカパのハイボールを、マッチングさせた。「普段やっていることですから」と冷静に答える中垣氏が印象的であった。

Speed and Taste Challenge 速さは互角。多彩な話題で楽しませた選手が部門賞に。

 「シロックウォッカマティーニ」「サカパモヒート」「シングルトンロブロイ」など6つの課題カクテルを8分以内で仕上げていく。しかしスピードだけではなく、美味しさはもちろん技術やプレゼンテーション力も問われる。昨年は時間を超過すると6秒ごとに1ポイントのペナルティが科せられたが、今年は8分を過ぎると味の評価を受けられないというより厳しいものに。BGMは自分で持ち込んだものをかけられるため「聴きなれたものを持っていくと、サビで時間の経過がわかる(某ファイナリスト)」といったウラワザもあるようだ。藤井 隆氏(Bar,K/大阪)は、サッカーの話題から世界大会の話を経由してブラジル伝統のカクテル、カイピリーニャをサーブ。ヘミングウェイ愛用のバーのレシピでモヒートを出すなど、多彩な話題で審査員を楽しませながらプレゼンテーションし、見事部門賞を獲得した。

Classic and Twist Cocktail Challenge カクテルの知識と自分流のアレンジを語り尽くせるか。

 10種類のカクテル(「ウイスキーサワー」「コスモポリタン」「バラライカ」など)の中から、その場でオーダーされた2つのクラシックカクテルと、ファイナリストの創意工夫を加えたツイストカクテル1杯、計3杯のカクテルで競う。クラシックカクテルについては豊富な知識と会話力がカギとなった。関係する歴史やエピソードがレシピとともに語られ、ギャラリーもカクテルの奥深さに感銘を受けた様子。
  ツイストカクテルは、自分なりのアレンジをプレゼンテーションし、美味しく、かつ説明に納得して味わってもらうことがポイント。吉田 茂樹氏はシルクストッキングをクラシックに続けてツイストした。「ラテンダンスのように楽しく」とシェイカーで自家製スパイスを振り混ぜ、さらにフラスコのようなガラスポットを使って香りを立たせる。新旧の飲み比べも楽しめる形となった。
  部門賞の宮﨑 剛志氏(奈良ホテル/奈良)は、クローバークラブをツイスト。タンカレーナンバーテン(ジン)をベースとし、そのボタニカルなフレーバーにマッチしたハーブのエキスをエスプレッソマシンで抽出する「クローバークラブ・プレッソ」を披露。仕上げにすりおろしたジンジャーと柑橘類のピールが食欲をそそる、食前酒としてふさわしい1杯となった。

Ritual and Cocktail Theatre Challenge ユニークな“儀式”でブランドの価値をさらに昇華。

 これは第二次書類審査でエントリーした創作カクテルを準備10分・本番10分でサーブするチャレンジ。対象ブランドを魅力的な創作カクテルと演出で紹介し、「飲みたい」気持ちをとことん刺激することが重要である。使用する素材、ツールすべてファイナリストが持ち込むことができ、カフェで使う本格的なエスプレッソマシンや、タブレット端末によるプレゼンテーション、パンチをシェアして先日逝去した偉大なテキレーロ、ドン・フリオ氏に陽気に献杯するものまで、実にユニークなアイデア、パフォーマンスが多数披露された。
  このチャレンジの勝者となったのは「店の器材をカウンター以外すべて持ってきた」と笑う宮之原 拓男氏(BAR ORCHARD GINZA/東京)。タンカレー ナンバーテンの製法にヒントを得て、香水の技術を応用した「Perfume No.10」で勝負。カモミールから水蒸気蒸留でエッセンスを取り出すほか、グリーンアニスなどをシロックに漬け込んだオリジナルのボタニカルや、液体窒素で急冷させたぶどうなど、あっといわせる素材づかいがたっぷり。会場をヒートアップさせていた。また、「ピーニャ」をキーワードにした炎の演出が美しい、吉田 茂樹氏。松ぼっくりのキャンドルを灯し、テキーラの原料アガベの根茎から連想されるパイナップルを、ドン・フリオ(テキーラ)とともに華麗にフランベ。仕上がった紅のカクテルは、メキシコの情熱的な太陽を思わせた。

優勝は4年連続ファイナル挑戦の吉田 茂樹氏。日本の世界大会2連覇をめざして、闘志を新たに。

 実技審査終了後、テレビやラジオでおなじみのバイリンガルタレント、ジャスティン・パターソン氏をMCに迎え、歴代優勝者によるカクテルデモンストレーションが行われた。いずれもさすが、イマジネーションをかきたてられるストーリーのある演出で、会場中が感嘆の声を漏らすほど。日本のバーテンディングのレベルを見せつけていた。そしてスーパープレミアムウォッカシロックパーティでシロックカクテルを存分に堪能したあと、いよいよ表彰式へ。2012年の日本代表としてリオ・デ・ジャネイロへの切符を見事手にしたのは、前回2位だった吉田 茂樹氏(セルリアンタワー東急ホテル「クーカーニョ」/東京)。2011年世界チャンピオンの大竹 学氏とは苦労を共にした仲とあって、ふたりとも感涙し言葉がつまる場面も。チャレンジ中は4年間の思いを込めつつ時間オーバーすることなく、冷静にプレゼンテーションを行っていた吉田氏であったが、優勝者のみに許された最後のウイニングパフォーマンスでシロックギムレットをカウンターに差し出すと、ようやくはにかんだような笑顔がこぼれた。
  大会の初日、「血も汗も涙も流してきた。大竹の次は自分」と語った吉田氏。しかし、次の世界大会参加国は40カ国以上。最初の2日間で20名に絞られる厳しい大会となる。世界中の期待をエネルギーに変えて、このハードルを超えられるか。
「日本人による世界大会2連覇を背負ってやっていく」。
吉田氏の重く力強い宣言にエールを送らずにはいられない。

日本大会優勝者 (敬称略)

吉田 茂樹(セルリアンタワー東急ホテル「クーカーニョ」)

各賞受賞者(敬称略)

第2位 宮之原 拓男(BAR ORCHARD GINZA)

第3位 中垣 繁幸(BAROSSA cocktailier)

Challenge Winner(敬称略)

Food Matching Challenge  中垣 繁幸(BAROSSA cocktailier)

Speed and Taste Challenge  藤井 隆(Bar, K)

Classic and Twist Cocktail Challenge 宮﨑 剛志(奈良ホテル)

Ritual and Cocktail Theatre Challenge 宮之原 拓男(BAR ORCHARD GINZA)