世界の精鋭39名が8つのチャレンジで激突。お客様をもっとも喜ばせたバーテンダーは!?

大西洋の青さとホワイトサンドが美しいブラジル、リオ・デ・ジャネイロのコパカバーナビーチ。
このビーチサイドでひときわ美しい白亜のホテル「コパカバーナ・パレス」が2012年世界大会の会場となった。
50カ国、約1万5,000人のバーテンダーから勝ち残った精鋭39名が4日間にわたって、審査員を「お客様」に見立てる全8チャレンジに挑んだ。
今回は39名→16名→10名と徐々に絞られていくシビアな方式。
その中で、日本代表・吉田 茂樹氏(セルリアンタワー東急ホテル タワーズバー「ベロビスト」)をはじめ
アジア・パシフィックエリアの選手の健闘が光った。

1日目 オープニングの興奮も冷めぬまま、難度の高いチャレンジへ。

 最初の2日間は全員が4グループに分かれて4つのチャレンジに挑む。各チャレンジでは2つずつカクテルを仕上げなければならない。吉田氏のファーストチャレンジは「Hollywood-Bollywood-Hong Kong(ハリウッド−ボリウッド−香港)」。自身が選んだ映画スターに捧げるカクテル創作とボトルサーブを行うもので、片方を女優に、もう片方を男優に捧げるという趣向。吉田氏は開催地ブラジルにちなんで『イパネマの娘』のエロイーザをイメージし、雲の上のラム、ロン サカパと、雲の上の存在である女性主人公をかけた美しいカクテルを創作する。つづけて名優チャールズ・チャップリンをストライディングマンになぞらえてジョニーウォーカーブルーラベルをボトルサーブ。
竹のグラスも登場させて審査員に印象づけていく。
  2番目のチャレンジは「Retro Chic: Classic and Vintage(レトロ・シック:クラシック アンド ヴィンテージ)」。ホームバーを想定しており、許されたツールはアイスバケツとトング、シェイカーが1つ、いくつかのグラスウェアだけ。材料も10種類までしか選べない。まず「クラシック・シック」で16のクラシックカクテルから選んで作成。次の「ツイステッド・シック」で50〜60’sの影響を受けたカクテルに独自のツイストを加えていく。台湾代表のKae Yin(カエ・ユィン)氏は「ダイキリ」を選択。ベースにロンサカパを選び、ライムジュースをベルモットに変えて「ヘミングウェイスペシャル」と名付けた。ダイキリを愛した作家アーネスト・ヘミングウェイ(1899-1961)が甘党だったことから甘いベルモットを使用したという。シンプルだが粋なツイストだ。吉田氏は、世界中からブラジルに航空機(アビエーション)でバーテンダーが参集したことを祝し、タンカレーナンバーテンを使った「アビエーション」をつくった。そして、ドン・フリオを使い「シルク・ストッキング」をツイスト。50年代に帝国ホテルで初めてパンケーキが振舞われたストーリーと絡めて、コーヒー豆、卵黄とメープルシロップで大人のデザートカクテル「Silk Stocking for Breakfast(シルク・ストッキングフォー ブレックファスト)」をサーブした。

2日目 テクニック・発想力だけでなく、知識と感性も試される。

 2日目のチャレンジは「Tropical Journey(トロピカル・ジャーニー)」から。リオ・デ・ジャネイロにぴったりの、熱帯らしいトロピカルなカクテルを2つ創作・披露する。ただし、条件がひとつ。それはクール・サイドとワイルド・サイド、対極な2つのカクテルを創ること。解釈は選手にゆだねられる。吉田氏はブラジルを代表する2つの音楽、ボサノバとサンバをテーマに選んだ。クール・サイドがボサノバだ。ロン サカパを使って「バチータ・デ・ココ」を披露。ワイルド・サイドのサンバは、ドン・フリオを使った情熱のカクテル「ラ・フィエスタ」。カラーリングも紅白と対照的になった。

 午後は「Cocktail Mastery(カクテル・マスタリー)」。スピリッツとカクテルの知識が試される。テイスティングと筆記試験を終えたあと、選んだスピリッツでカクテルを2つ創る。これも片方はそのスピリッツカテゴリーの特性を表した「クラシック」カクテル、もう片方はオリジナルな「ファンシー」カクテルと、設定が定められている。吉田氏はドン・フリオをベースにした「マルガリータ」と、タンカレーナンバーテンによる「アロマティクス」を創作。マルガリータはブラジルの国民的スポーツ・サッカーのブラジルカラーにちなみ、グラスの脚にレモンとライムのピールをかけた。グラスを持ったときについた香りを楽しめる仕掛けだ。アロマティクスはタンカレー ナンバーテンに、コリアンダー、ジュニパーベリーの香り、レモンバームから抽出したグリーンの色を加えて、アロマキャンドル越しのピールをかけて仕上げる。なんとも嗅覚をくすぐられる逸品となった。

3日目 ブラジルのエキゾチックな食材と料理に対峙する。

 2日目終了後、審査員は参加者のすべてのポイントを集計し、上位16名は第2ラウンドへ。3日目の朝8:00という早い時間に結果発表。もちろん、われらが吉田氏は第2ラウンド進出。ホッとする間もなく、次のチャレンジへ進む。「Rio Market Challenge(リオ・マーケット・チャレンジ)」だ。
  これは制限時間内に、地元リオ・デ・ジャネイロの青空市場へ行き、そこで買えるものだけで2種類の対極のカクテルを創作する。珍しいエキゾチックなフルーツ、スパイス、ビネガー、茶葉などを使いこなす発想力が求められる。シンガポール代表のAkihiro Eguch(アキヒロ・エグチ)氏が、わずかな時間で現地のスパイスとトンカ豆をすりおろしたオリジナルの「ミックス・ド・スパイス」をつくり、タンカレー ナンバーテンの持ち味を生かした「ブラジリアン・スパイスド・ジュレップ」で審査員を驚かせていた。

続いては「Food Matching Challenge(フード・マッチング チャレンジ)」。6品のラテン・アメリカ料理から2品を選び、それぞれに合うカクテルを用意する。料理にはスイート、スモーキー、スパイシー、ソルティ、様々な味のものが用意され、食材も肉、魚、乳製品など多岐にわたる。UAE代表のJimmy Barrat(ジミー・バラット)氏のテーマは「大人のフルーツパンチ」。カスタードクリームタルトにほのかな苦味を利かせたウイスキーカクテルをマッチング。ジョニーウォーカーブルーラベルのフレーバーの複雑さを生かしながら、タルトとの相性を考え、ココナッツリキュールで仕上げていた。シンプルかつバランスの良さが絶妙な一杯がタルトと合わさると、まさに口の中でフルーツパンチになるという。カクテルとフードをお互いに高めあうマッチングに脱帽だ。

4日目 ついにラストチャレンジ。総合優勝は豪州代表の手に。

 いよいよ、ファイナリストの発表へ。参加者のレベルが非常に高く、協議の結果、予定の8名に2名プラスされ、合計10名の名前が挙がった。もちろん「Shigeki Yoshida」もコールされ、緊張のファイナルラウンドに挑む。
  まずは「Cocktails Against the Clock(カクテルズ・アゲインスト・ザ・クロック)」。8分の制限時間内に3杯以上6杯までのカクテルを創作する、時間のプレッシャーと戦いながら、スピードはもちろん、クリエイティビティ、テクニック、味とバランス、スピリッツの表現を印象づけなければならない。このチャレンジで吉田氏は見事、部門優勝に輝いた。5杯を予定していたが結局は6杯を完璧に創りあげる。大会開始早々から評判が高かった、味へのこだわりが実を結んだ。

 そして最終チャレンジ。1時間で審査員全員に対してカクテルをふるまう「Signature Specials(シグネチャー・スペシャルズ)」。オープンセッション形式で、審査員がバーを訪れるお客様になり、トップ10バーテンダーの「マイ・バー」を移動しながらカクテルを試飲してまわる。バーテンダーは自分が最もすすめたいシグネチャーカクテルのほかに、想定外のカクテルもオーダーされ、まさに普段のサービス、仕事ぶりが試される。吉田氏の「Shigeki’s Bar」にも全ジャッジが訪れ、ドン・フリオを使った太陽のカクテル「Fantasia(ファンタシア)」を楽しんでいた。

 さあ、盛大な祭典が終わりを告げる。すべてのチャレンジを終えて結果発表。お客様をもっとも喜ばせた総合優勝者は、オーストラリア代表のTim Philips(ティム・フィリップス)氏。惜しくもジャパン2連覇は阻まれたが、ハプニングが起きても冷静に前向きにチャレンジに臨む吉田氏に誰もが惜しみない拍手をおくっていた。悔しさを噛みしめつつ、「全チャレンジを楽しみました」と、清々しい笑顔の吉田氏。まもなく「ワールドクラス 2013」が始動する。世界の精鋭バーテンダーと出会い切磋琢磨できるこの大会は、新たな挑戦者を待っている。

総合順位

優勝 Tim Philips ティム・フィリップス (Australia オーストラリア)

2位 Jimmy Barrat ジミー・バラット (UAE アラブ首長国連邦)

3位 Kae Yin カエ・ユィン (Taiwan 台湾)

4位 Fjalar Goud フヤラー・ゴウド (Netherlands オランダ)

5位 Ricky Gomez リッキー・ゴメズ (USA アメリカ)

6位 Shigeki Yoshida 吉田 茂樹 (Japan 日本)

7位 Guiseppe Santamaria ジュゼッペ・サンタマリア (Spain スペイン)

8位 Dennis Zoppi デニス・ゾッピ (Italy イタリア)

9位 Andy Mil アンディ・ミル (UK 英国)

10位 Kaspar Riewe Henriksen カスパー・リエベ・ヘンリクセン (Denmark デンマーク) 

部門優勝

◇カクテルズ・アゲインスト・ザ・クロック
Shigeki Yoshida, Cerulean Tower Tokyu Hotel, Tower’s Bar Bellovisto, Japan
吉田 茂樹(セルリアンタワー東急ホテル タワーズバー「ベロビスト」、日本)

◇トロピカル・ジャーニー 
Jimmy Barrat, Zuma, UAE ジミー・バラット(ズーマ、UAE)

◇ハリウッド・ボリウッド・香港
Giuseppe Santamaria, Ohla Boutique Bar, Spain ジュゼッペ・サンタマリア(オウラ・ブティークバー、スペイン)

◇カクテル・マスタリー
Olivier Jacobs, Jigger’s Belgium オリバー・ヤコブス(イエガーズ、ベルギー)

◇レトロ・シック−クラシック&ヴィンテージ
Varia Dellalian, Momo at the Souks, Lebanon ヴァリア・デッラリアン(モモ・アット・ザ・ソークス、レバノン)

◇フード・マッチング
Andy Mil, London Cocktail Club, UK アンディ・ミル(ロンドン・カクテル・クラブ、UK)

◇リオ・ストリート・マーケット
Dennis Zoppi, Smile Tree, Italy デニス・ゾッピ(スマイル・ツリー、イタリア)

◇シグネチャー・スペシャルズ 
Kae Yin, Marsalis, Taiwan カエ・ユィン(マーサリス、台湾)