ワールドクラス2013 ジャパンファイナルレポート

一杯に心をこめる。そのスタイルが日本の頂点へ、そして世界へ。

ワールドクラス 2013 世界大会は地中海洋上の豪華客船「アザマラ ジャーニー号」で行われる。 フランスのリヴィエラを出港、ニース、モンテカルロ、サントロペ、イビザを経て、バルセロナまで5都市を巡りながらの 豪華なコンペティションとなる。世界から例年以上に注目されるであろう檜舞台をめざし、6月9日(日)・10日(月)、 10人のファイナリストがホテルグランパシフィックLE DAIBA(東京・港区)でテクニックとホスピタリティを競いあった。 5年目を迎えた今年もまた、熱い熱い戦いとなった。

Signature Specials Challenge 自家製素材も活用しながらブランドとファイナリスト自身を表現。

 開会式の興奮が冷めやらぬまま、同じ会場で熱戦はスタートした。ファイナリストが持てるテクニックを思う存分披露し、自身とブランドを象徴するようなオリジナリティあふれるカクテルを創作する、まさにスペシャルなチャレンジ。事前に綿密に練られた各自のレシピには、自家製のシロップやビターズなど手間をかけた素材が並ぶ。
  なかにはユズやシソ、檜といった日本ならではの材料を使い、和洋の融合を試みた作品も。門間 輝典氏(札幌プリンスホテル スカイラウンジ Top of PRINCE/北海道)はタンカレー ナンバーテン(ジン)に宇治抹茶を合わせ、茶筅を使って和のもてなしを披露。点茶とタンカレー ナンバーテンをかけて「Ten-Cha」と命名した。
  ブランドの製法を再現したプレゼンテーションも目立った。部門優勝した槇永 優氏(Bar Leigh Islay/大阪府)はドン・フリオ(テキーラ)の樽香に注目。オークのウッドチップでパイナップルジュースに薫香を加えるとともに、ドン・フリオ レポサドが熟成される樽にちなんでフォアローゼズ(バーボン)のシロップやバーボン樽で仕込んだビターズを用意。創作の背景となるブランド理解が徹底していた。

Food Matching Challenge 6種類のスペイン料理から2種類を選び、「もっと食べたくなる」カクテルを提案。

 当日明かされる6種類のフードからファイナリスト自身が2種類選び、それぞれに合ったカクテルを提案するフードマッチングチャレンジ。今年は世界大会にちなんでカタルーニャソーセージやパエリアといったスペイン料理が並べられた。評価のポイントは「フードをもう一口食べたくなること」。カクテルだけが際立っても加点されない。そこで、ソーセージに合わせるソースをイメージしてザ シングルトン グレンオード (シングルモルトウイスキー)にイチジクをマッチングさせたのが中村 晃子氏(The door,, 高倉店/京都府)。ウイスキーのバニラ香とフルーツの旨味が見事に肉の味わいを引き立てていた。山羊のチーズタルトには、スパイスをきかせたタンカレー ナンバーテンのカクテルを。この組み合わせも相乗効果を生み出し、審査員をうならせていた。
  部門優勝に輝いたのは、宮﨑 剛志氏(奈良ホテル/奈良県)。食前酒・食後酒という対比で白ワインと貴腐ワインをイメージしたカクテルを提案した。味とバランスはもちろん、2つのカクテルの対照性をわかりやすく提示した点も高評価につながったようだ。

Cocktails Against the Clock Challenge わずか6分のタイムリミットにギャラリーの声援もヒートアップ。

 2日目は6種類のカクテルを6分以内でつくるスリリングなチャレンジからスタート。6分を過ぎると30秒ごとに15ポイント減点となる。スピードだけでなく、味、技術、見た目、すべてを審査される。目の前の審査員をお客様としてもてなす余裕もほしい。前年チャンピオンの吉田 茂樹氏(セルリアンタワー東急ホテル タワーズバー「ベロビスト」/東京都)曰く、「ファイナリストが一番ドキドキし、終わってホッとする競技」。時間を気にするあまり量や味のバランスを崩すのはNG。切迫感の中でファイナリストの個性が良くも悪くも見えてしまう怖さがある。
  一方、ギャラリーにとってはそれが楽しい。ダブルシェイクやボトル3本持ちといった派手なパフォーマンスを間近で見ることができ、思わずヒートアップする時間。中村 晃子氏が5分39秒をたたき出すなど初出場組も健闘し、おおいに会場を沸かせた。ただしダブルステアの場合、利き腕でない方のステアがきちんとされているかをチェックされていたり、6杯のカクテルの出すタイミングや段取りなど、味や技術もしっかりと審査され、スピードだけではない日常の仕事ぶりと仕上がったカクテルのクオリティが評価の分かれ目となっていた。
  このエキサイティングな戦いを制したのは、またしても宮﨑 剛志氏だった。「出だしはペースがつかみきれずあせったが、とにかく美味しいカクテルに仕上げようと気持ちを切り替えた」と語る。惜しくも若干のタイムオーバーはしたが、一つひとつを丁寧に仕上げたことが得点につながった。

Retro Chic Challenge Reason & Whyが伝わる明快なプレゼンテーションが鍵。

 近年のグローバルトレンドを反映したチャレンジ。繊細な過去のスタイル「レトロ」に、エレガントでスタイリッシュな「シック」の要素を取り入れ、2種類のスタンダードカクテルに美味なる変化(=ツイスト)を加えていくというもの。課題となるカクテルの歴史・魅力・レシピなどを背景に、ツイストの方法やその理由を説明しながら詳細なプレゼンテーションを行わなくてはならない。12種類の課題カクテルから1種類は事前に選べるが、1種類はチャレンジの直前にひいたカードによって決められる。難易度の高いチャレンジである。
  しかし、難解なコンセプトをユニークな演出でショーアップしたファイナリストも多かった。久保 俊之氏(ark Lounge&BAR/青森県)、藤井 隆氏(Bar,K/大阪府)は、禁酒法時代のスピークイージーバーをイメージした作品を小粋なトークとともにサーブ。大きな喝采を浴びていた。
  また中垣 繁幸氏(BAROSSA cocktailier/岐阜県)は、12種類全部のカクテルについてディスプレー用のシートを用意し、周到な準備を印象づけた。カードで当たったブラッディ・メアリにもパプリカを使った地中海風のレシピを紹介するなど課題カクテルを徹底的に研究した様子が見受けられる。
  では、このチャレンジの部門優勝は……? 普段はガーニッシュに使うチェリーをマドルして使用したロブ・ロイのツイストと、ウォッカの代わりにタンカレー ナンバーテンを用いたコスモポリタンを提案した宮﨑 剛志氏がさらい、なんと三冠を達成したのだった。決して派手なパフォーマンスではないが、もとのクラシックカクテルを尊重し、シンプルな素材やアイテムで勝負したオーセンティックなバーテンディングが功を奏した。ギャラリーにはバーテンダーの方も多かったが、あらためてクラシックカクテルに目を向け、宮﨑氏のツイストカクテルと飲み比べてみたいといった声も少なくなかった。

3部門優勝、圧倒的な強さで宮﨑 剛志氏が日本代表に。

 総合優勝は誰なのか。結果を待つ高揚感をあおるように、すべてのチャレンジのあとスーパープレミアムウォッカ「シロック」ブランドパーティが催された。来場者がワールドクラスを疑似体験するシロックチャレンジや、吉田 茂樹氏のシロック スペシャル カクテルデモンストレーション、ワールドクラスアンバサダーで世界大会のプランニング・MCを務めているスパイク・マーチャント氏のトークショーと、贅沢な企画が90分間に目白押し。ワールドクラスの楽しさ、華やかさの一端を感じられる貴重な機会となった。
  表彰式では部門優勝の発表で三たび同じ名前が。そうなると、もはや誰もがその人の勝利を確信する。予想通り、総合優勝の発表でもその名がくりかえされた。奈良ホテルの宮﨑 剛志氏。オープニングセレモニーで語っていた「一杯一杯心をこめてつくる」スタイルが結実した瞬間だった。
  ご本人にとっては意外だったようで、「まさか自分が勝つとは。他のファイナリストのパフォーマンスを見て、また一からやらなければと思っていた」と戸惑いも。だが満場の拍手を浴び、ファイナリストたちや会場を埋め尽くす観客から祝福を受けると、前を向いた。世界大会へ向けて、「日本人のアイデンティティをもって、代表として恥じないパフォーマンスができるよう努力します」と力強く宣言。次なる高みへと歩み出した。期待の世界大会はまもなく7月5日(金)に幕を開ける。

日本大会優勝者 (敬称略)

宮﨑 剛志 (奈良ホテル/奈良県)

各賞受賞者 (敬称略)

第2位 宮之原 拓男 (BAR ORCHARD GINZA/東京都)
第3位 中垣 繁幸 (BAROSSA cocktailier/岐阜県)

Challenge Winner (敬称略)

Signature Specials Challenge 槇永 優 (Bar Leigh Islay/大阪府)
Food Matching Challenge 宮﨑 剛志 (奈良ホテル/奈良県)
Cocktails Against the Clock Challenge 宮﨑 剛志 (奈良ホテル/奈良県)
Retro Chic Challenge 宮﨑 剛志 (奈良ホテル/奈良県)