ワールドクラス2013 世界大会レポート

WORLD CLASS 2013 GLOBAL FINAL 華やかで陽気な地中海クルーズで技とアイデア、おもてなしの心を競う。

アザマラジャーニー号の汽笛が3回高らかに鳴り響き、ワールドクラス 2013世界大会のスタートを祝福した。
5年目となった今年は、ニース、モンテカルロ、サントロペ、イビザ、バルセロナを巡る豪華客船が舞台。
5日間にわたって3ラウンド8チャレンジで腕を競いあう。世界52カ国が各国大会に参加。
その中から集まった44名のバーテンダーのうち第2ラウンドへ進めるのは16名。第3ラウンドに臨めるのはわずか8名だ。
はたしてわれらが日本代表、宮﨑 剛志氏(奈良ホテル)は…?
ワールドクラス史上もっとも華やかでもっとも厳しいコンペティションが幕を開けた。

1日目 インフュージョン、スピークイージーと話題のカテゴリーが新登場。

金曜のモンテカルロに歓声がわきおこる。「Mediterranean Mastery(メディテレニアン マスタリー)」。地中海沿岸をイメージしたカクテルが船内を盛り上げた。たとえば、ジェイソン クラーク氏(ニュージーランド/Shott Beverages)は、「イタリアのピクニック」をテーマにタンカレー ナンバーテン(ジン)とイタリアの食前酒・アペロールを合わせ、仲間たちと楽しむ爽やかな1杯を提案。プレートにチーズなどを盛りつけた演出も楽しげだ。
宮﨑氏はギリシャとスペインをイメージした2作品を披露。まずは古代ギリシャのワインをイメージしたカクテル、フランジェリコとギリシャ産のウーゾ(リキュール)を使った「ザ バッカナル」。ドン・フリオ アネホ(テキーラ)をベースに、松ヤニを使ったワインの熟成感を表現する。次に、スペインの人々と同様に家族を大切にした創業家にちなんでジョニーウォーカー プラチナムラベル 18年(スコッチウイスキー)を手に取り、その上品な魅力を生かした「プラチナム シエスタ」をサーブする。スペインで飲まれるシトラス入りのアイスコーヒーをカルーア、ペドロヒメネス(シェリー)を使って表現。チャレンジが終了すると各国の選手が、宮﨑氏のプレゼンテーションがどんなものだったのか聞こうと殺到し、注目度の高さにこちらも驚いてしまう。

セカンドチャレンジ「Time to Play(タイム トゥー プレイ)」は、タンカレー ナンバーテンの魅力を2部構成で掘り下げる新しい試み。前半の「クリエイト」は事前セッションでボタニカルとインフュージョンの理解を深め、約30種類のハーブから好きなものを選んでタンカレー ナンバーテンにインフュージョン(浸漬)させておく。ファイナリストが全員白衣を着て、試行錯誤しながらガラス容器にハーブをインフュージョンさせる光景はまさに船上の「ラボ」。これを使ってオリジナルの魅力的な1杯を創作するというもの。後半の「パーティ」では、禁酒法時代の違法酒場「スピークイージー」をテーマにバーテンディングを展開する。
パート1のクリエイト、宮﨑氏は浸漬する速さの違いを考慮し、ユーカリ、レモンバーム、ライムの葉、ラベンダーを素材別にインフュージョンさせたのが奏功した。さらにたっぷりの氷でハーブ香を開かせる。カクテル名は「ハーブガーデン オン ザ シップ」。船内で審査を続ける審査員に「外で飲むと潮風でさらにおいしくなりますよ」と促すと、スティーブ オルソン氏は席を立ってテラスへ。心からリフレッシュできたようで、満面の笑顔で戻ってきた。
パート2では、2人の審査員に禁酒法時代を彷彿とさせる帽子を渡し、かの世界へといざなう。彼らがおしぼりの下に隠された鍵でブック型シークレットボックスを開けてみると、なんとカクテルの入った哺乳瓶が!鮮やかにスピークイージーを表現し、審査員をおおいに沸かせていた。

2日目 南仏サントロペで即興性、創造性をフルチャージするサントロペ ストリート マーケット

大会2日目の朝はサントロペの活気あふれる色彩豊かなストリートから始まった。港から歩いて5分ほどの市場にはフレッシュベジタブル、フルーツ、オリーブ、サラミ、スパイスなど南仏の食材が並ぶ。ここでバーテンダー自身が素材を購入し、即興性、創造性を駆使して対照的なカクテルを2つ創作するのだ。その名も「St Tropez Street Market(サントロペ ストリート マーケット)」。予算は1人30ユーロ、買物時間は30分。スタートの合図とともに44名がいっせいに走り出した。
7〜8種類が店頭に並ぶフレッシュトマトを生かしたのはクロス ユー氏(中国/Te Mei Shi Food & Beverage Co. Ltd)。大きなレッドパプリカをグラスとして使い、スパイシーな「ブラッディーマリア」を提案。ドン・フリオ ブランコ(テキーラ)をベースにトマトの魅力をくっきりと印象づけた。もうひとつはメロンのカクテル。青果店の女性に勧められ、すぐにロン サカパ XO(ラム)と合わせることをひらめいたとか。スピリッツと素材のおいしさを生かすために、味わいに深みを与えるチョコレートビターを加えただけのシンプルなレシピで。スパイシーさと甘さで対照的な2つのカクテルをプレゼンテーションした。
宮﨑氏はサントロペのシンボルであるオレンジと赤の時計台、南仏のピンクの街並みを表現したシロック(ウオッカ)ベースの「ウェルカム トゥー サントロペ」をサーブ。飲む際に審査員がグラスのレッドカラント(赤スグリ)を潰すと赤色がカクテルのオレンジと混ざりあい、ほのかなピンク色が表れる。2つめはブラッセリーのオープンテラスで飲まれていた赤いカクテルにインスピレーションを受け、タンカレー ナンバーテンベースのネグローニのツイストに挑戦した「サントローニ」。マルシェで買った小さなボトルに入ったビタードリンクを煮詰めたものを、カンパリの代わりに使用。何杯もカクテルを飲む審査員のために焼きたてのバケットを口直しに提供するといった氏の心遣いも特筆しておきたい。

3日目 カンヌと奈良の絶妙なコラボレーションで第1ラウンドを難なくクリア

この日はカンヌ国際映画祭のレッド・カーペットを歩いたスターや監督らをモチーフに、シグネチャーカクテル1品とボトルサーブ1品を提案する「The Red Carpet(ザ レッド カーペット)」から。
宮﨑氏は奈良スタイルで攻めた。シグネチャーカクテルは映画監督の河瀬 直美さんがモチーフ。同じ奈良県出身で、カンヌ映画祭で数々の賞を獲得。その常にチャレンジする姿勢をジョニーウォーカーの「Keep Walking」と重ね、ジョニーウォーカー ゴールドラベル リザーブ(スコッチウイスキー)をチョイス。奈良県産柿ピューレと大和茶のフォームで仕上げた「ジョニーウォーカー 奈良スタイル」を披露した。同じカクテルを持つ河瀬さんの写真と乾杯するという粋な演出も印象深い。
ボトルサーブでは宮﨑氏の最愛のブランド、フランス産ブドウからつくられたシロックを選択。ボトルのシロックブルーに、北野 武監督の「北野ブルー」をかけて、監督とコメディアンという二面性を持つ北野氏と、通常カクテルベースとして使われるウオッカであるが、そのまま飲んでもおいしいという二つの顔を持つシロックをテーマにした。そのなめらかな味わいを生かすために茶器に注ぎ、ゼラチンを入れ茶筅でとろみを出してからロックスタイルでサーブ。サイドに添えた奈良の吉野くずの菓子を口に含んでから飲むと、シロックのシトラスの香りが華やかに開き、なんとも言えぬ味わいに。まさに宮﨑氏の命が吹き込まれたサービスとなった。

さて、ここで第1ラウンドが終了。セミファイナルに進む16名の発表がプールデッキで行われた。宮﨑氏は無事クリアし、次の「Kings of Flavour(キングス オブ フレーバー)」に挑む。
2つのパートで構成されるこのチャレンジ。1つは「Whisky Mystery(ウイスキー ミステリー)」。52 枚の大きなトランプカードが用意され、4つのマークから2枚ずつ、計8枚カードを引く。そのカードの箱に入っている材料8種をなるべく多く使ってカクテルを2つ創作するのが課題。ベーススピリッツはディアジオリザーブブランドのウイスキーだ。宮﨑氏が引いた材料は、ラベンダー、オレンジ、レモングラス、レモンカード、ポップコーンウオッカ、メロン、ダージリン茶葉、ドライトマト。このうち7つを使いこなした。
パート2の「Sensorium(センソリウム)」はザ シングルトン(シングルモルト スコッチウイスキー)のシリーズからいずれかを選び、五感すべてを満たすカクテルを創作するという非常に難しいチャレンジ。道具は自由に持ち込めるため、モロッコ代表は自国の美しい器で目を楽しませていた。宮﨑氏は審査員に目隠しするという大胆なプレゼンテーションを実行。ペドロヒメネスとバニラビターズをそれぞれ右手と左手にスプレーしたあと手を擦り合わせてもらい、シェリー樽とバーボン樽を半々使うザ シングルトン グレンオード 12年の魅力を見事に伝えた。五感すべてを満たすという難題に苦戦するファイナリストが多い中、それを期待と驚きを持ってクリアしていた宮﨑氏のプレゼンテーションは、圧巻であった。

4日目 プールデッキに6Lのパンチボウルが8つ並ぶ、壮観な船上バーへ。

スペイン領イビザ島に寄港。島全体が世界遺産に登録されており、石畳の細い小道が入り組む中世・近世の美しい町並みが残る。美しい海をのぞむしゃれたレストランバーで「Tapas Table(タパス テーブル)」が行われた。まず6種類のタパスを試食し、2種類を選んでそれぞれに合う対照的なカクテルを創作する。
ローラ シャハト氏(スイス/Clouds Bar)は、オイスターのタパスに、タンカレー ナンバーテン、洋ナシと大葉を合わせたカクテルを創作。スパイシーな味わいのタパスに、フレッシュな味わいのカクテルがなんとも合いそうだ。もう一品はトライフルというデザートをチョイス。バランスのとれた甘美なフルーツ、蜂蜜やウッド、軽くて甘いスモーキーな余韻のあるジョニーウォーカー プラチナムラベル 18年をベースにしたカクテルとデザートの組み合わせは、見ているだけで試したくなる。
ジャパンファイナルのフードマッチングで部門優勝している宮﨑氏は、日本で披露したカクテルをうまく生かした戦略で臨む。1つ目のカクテルは、タンカレー ナンバーテンを使って高級白ワインをイメージし、まぐろといくらのタパス 海苔とジンジャーシロップソース添えと合わせた「アペリティフ ナンバーテン」。2つ目は、ジョニーウォーカー ゴールドラベル リザーブを使って熟成感のあるソーテルヌの貴腐ワインをイメージし、薄く焼いたパン生地にのせた山羊のチーズに酢漬けのナスとバーナーで焼いたスイートレッドチリを添えたタパスに合わせた「ジョニーウォーカー ノーブル」。スピリッツでワインを表現していくカクテルに、審査員だけでなくワールドクラス グローバルアンバサダーであるスパイク マーチャント氏も釘付けだった。

こうして第2ラウンドが終了し、ファイナルに進む8名の発表が行われた。宮﨑氏には早々にファイナル ラウンド進出が告げられ、すぐに次の「Punch & Glass(パンチ & グラス)」の準備に取りかかる。
このチャレンジでは、世界的なトレンドになりつつあるパンチカクテルと、シグネチャーカクテルを披露する。大会側が用意したガラス製のパンチボウルは6Lも入る巨大なもの。8つのステーションがプールデッキに設置され、ファイナリスト8名のマイ・バーとなる。
宮﨑氏はパンチボウルにタンカレー ナンバーテン、ジョニーウォーカー ゴールドラベル リザーブ、ロン サカパ 23(ラム)を1本ずつ、大胆に入れ、ブレンデッド ルイボスティーを加えて、ライムスライスを沈めたり、ボウル側面に並べてデコレーションしていく。傍らには知人の特製だという特大の茶筅が!好みのフレーバーをつけられる3種のスプレーも用意して、みんなが楽しめるパンチを披露した。
シグネチャーカクテルは、ジャパンファイナルでも披露した「シロック ヴィンヤード」。シロックの製造プロセスを表現すると、「ぜひ、ジャン セバスチャン ロビケ(シロックのマスターディスティラー)に披露すべきだよ」と絶賛の声があがった。
もちろん外国勢も負けてはいない。マリオ セイホ氏(プエルトリコ/Santaella)はベースにプレミアムテキーラのドン・フリオ ブランコにレポサドをブレンド、サングリアのようにフルーツを合わせた。2種類のドン・フリオを使うことで、より味わいにふくらみが生まれ、ブルーアガベ香と甘みが口の中に華やかに広がる。ガーニッシュにはロン サカパ XOに漬け込んだパイナップルスライスを使うなど、じつに贅沢なパンチを提供した。

5日目 闘牛場で行われた豪華絢爛な表彰式。宮﨑氏は見事2冠に輝く。

いよいよ最後のチャレンジ「Cocktails Against the Clock(カクテルズアゲンスト ザ クロック)」が始まった。10分間で最低4杯、最高8杯のカクテルを仕上げる。テクニックやプレゼンテーション、カクテル1杯ごとの味も評価される。8杯を時間内で創るか、クリエイティビティを重視しカクテル数を抑えていくか、戦略が問われる。宮﨑氏は6杯をていねいにサーブしたが、8人中5人が8杯を創りあげる結果となった。ファイナリストたちは手をとめることなく会話もスムーズ。部門優勝を獲得したジェフ ベル氏(アメリカ/PDT)は、なんと審査員一人ひとりに合わせたカクテルを披露した。上野秀嗣氏には来日した際に上野氏のバーで飲んだホワイトレディーをサーブ。ガーニッシュの有無まで事前に確認していた。ガリー レーガン氏には、彼のトレードマークである指差しをかたどったスティックで混ぜるユーモアも。会場に笑いを起こす圧巻のパフォーマンスだった。

今年のワールドクラスは最後まで徹底してショーアップされていた。表彰式の舞台はバルセロナの闘牛場。リング中央で結果が告げられる。
宮﨑氏は、キングス オブ フレーバーの部門優勝、さらにアジアパシフィックのリージョン優勝の2冠を獲得、そして総合3位に。本番直前まで粘りづよく試行錯誤をくりかえした作品が見事に評価された。第1ラウンド終了時にスパイク氏と名誉ジャッジのデール デグロフ氏からフィードバックがあったが、宮﨑氏には温かいもてなしのスタイル、タイム・トゥー・パーティーの演出のおもしろさ、すべてのパフォーマンスがすばらしかったと高評価であった。
今回はモニカ バーグ氏(ノルウェー/Aqua Vitae)、マルタ エステラ氏(エルサルバドル/Restaurant Il Bongustaio)、ローラ シャハト氏といった女性陣の健闘も目立った。
優勝は、デイヴィッド リオス氏(スペイン/The Jigger Cocktail)。スペインの闘牛場で、スペイン人の優勝というドラマチックな最後を遂げた。歴代チャンピオンと共にウイニングカクテルを創るリオス氏は、5日間の激しい戦いを終えて満足げにグラスを傾けていた。
グローバルにまた新たな風が吹き始めるか。過去最大の盛り上がりと興奮の渦のなか世界大会の幕は閉じ、ワールドクラス 2014のスタートに向けて、また新たな扉が開かれる。タグボートのように次のバー文化を曳航する人材の登場を世界は待っている。

総合順位

優勝 David Rios (Spain/The Jigger Cocktail) デイヴィッド リオス( スペイン/The Jigger Cocktail)
2位 Jeff Bell (USA/PDT) ジェフ ベル( アメリカ/PDT)
3位 Tsuyoshi Miyazaki (Japan/Nara Hotel) 宮﨑 剛志 (日本/奈良ホテル)
4位 Jason Clark (New Zealand/Shott Beverages) ジェイソン クラーク( ニュージーランド/Shotte Beverages)
5位 Monica Berg (Norway/Aqua Vitae) モニカ バーグ( ノルウェー/Aqua Vitae)

リージョン優勝

◇ ヨーロッパ David Rios (Spain/The Jigger Cocktail) デイヴィッド リオス( スペイン/The Jigger Cocktail)
◇ アジアパシフィック Tsuyoshi Miyazaki (Japan/Nara Hotel) 宮﨑 剛志 (日本/奈良ホテル)
◇ ラテンアメリカ&カリブ海 Mario Seijo (Puerto Rico/Santaella) マリオ セイホ( プエルトリコ/Santaella)
◇ 北アメリカ&その他地域 Jeff Bell (USA/PDT) ジェフ ベル( アメリカ/PDT)

部門優勝

◇ Mediterranean Mastery( メディテレニアン マスタリー)
Zachary de Git (Singapore/Tippling Club) ザカリー ドゥ ギット( シンガポール/Tippling Club)
◇ Time to Play( タイム トゥー プレイ)
Kirill Runkov (Russia/Diageo) キリル ルンコフ( ロシア/Diageo)
◇ St Tropez Street Market( サントロペ ストリート マーケット)
Laura Schacht (Switzerland/Clouds Bar) ローラ シャハト( スイス/Clouds Bar)
◇ The Red Carpet( ザ レッド カーペット)
Gareth Evans (Great Britain/Social Eating House) ガレス エバンス( イギリス/Social Eating House)
◇ Kings of Flavour( キングス オブ フレーバー)
Tsuyoshi Miyazaki (Japan/Nara Hotel) 宮﨑 剛志( 日本/奈良ホテル)
◇ Tapas Table( タパス テーブル)
Jason Clark (New Zealand/Shott Beverages) ジェイソン クラーク( ニュージーランド/Shott Beverages)
Luke Ashton (Australia/Vasco Bar) ルーク アシュトン( オーストラリア/Vasco Bar)
◇ Punch & Glass( パンチ & グラス)
David Rios (Spain/The Jigger Cocktail) デイヴィッド リオス( スペイン/The Jigger Cocktail)
◇ Cocktails Against the Clock( カクテルズ アゲンスト ザ クロック)
Jeff Bell (USA/PDT) ジェフ ベル( アメリカ/PDT)

※ 世界大会参加ファイナリストの店名情報は世界大会開催時点での情報となります。