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World Class Trends

Vol.

1

ニューノーマル下でのトレンドと新たな変化

トリスタン・ステフェンソン(Tristan Stephenson)

数々の受賞歴を持つバーテンダー、飲食店経営者、著述家。著書「The Curious Bartender」シリーズ、また長距離走への並外れた情熱でも知られている。

通常、バー業界のトレンドに関する記事は、カクテル文化の新しい流行 —たとえば伝統的なスタイルや味への回帰、新しい素材や機器の導入によるイノベーションなど— を主に紹介するものだ。トレンドの移り変わりは最近激しさを増しているが、この原因としては、ソーシャルメディアによる情報発信の活発化に加えて、新しい体験を求める消費者の増加(それ自体がソーシャルメディアに影響される今の時代の特徴と、生活をオンラインで「共有」しようとする人々の指向が生み出したものだ)、さらに伝えようとする報道メディアの側からの関心の高まりなどをあげることができる。 バーやバーテンダーがゼロからトレンドを生み出し、顧客の側は単にそれを楽しんでいるだけだと片づけるのは簡単だが、現実には、ホスピタリティ業界におけるトレンドのほとんどは、環境、健康と福祉、持続可能性といった問題への関心の増大や、さらにはおいしいものへの人気の高まりなど、世界中で起きている様々な出来事に反応して生まれているものなのだ。

Vol.

1

ニューノーマル下でのトレンドと新たな変化

Tristan Stephenson
トリスタン・ステフェンソン(Tristan Stephenson)
数々の受賞歴を持つバーテンダー、バー経営者、著述家。著書「The Curious Bartender」シリーズ、また長距離走への並外れた情熱でも知られている。

通常、バー業界のトレンドに関する記事は、カクテル文化の新しい流行 —たとえば伝統的なスタイルや味への回帰、新しい素材や機器の導入によるイノベーションなど— を主に紹介するものだ。トレンドの移り変わりは最近激しさを増しているが、この原因としては、ソーシャルメディアによる情報発信の活発化に加えて、新しい体験を求める消費者の増加(それ自体がソーシャルメディアに影響される今の時代の特徴と、生活をオンラインで「共有」しようとする人々の指向が生み出したものだ)、さらに伝えようとする報道メディアの側からの関心の高まりなどをあげることができる。 バーやバーテンダーがゼロからトレンドを生み出し、顧客の側は単にそれを楽しんでいるだけだと片づけるのは簡単だが、現実には、ホスピタリティ業界におけるトレンドのほとんどは、環境、健康と福祉、持続可能性といった問題への関心の増大や、さらにはおいしいものへの人気の高まりなど、世界中で起きている様々な出来事に反応して生まれているものなのだ。

私の記憶では、世界の状況がこれほどバー業界のトレンドに大きな影響を与えたことはない。世界中のほぼすべての店が一時的に閉店するという非常に好ましくない状況をもたらしたのは事実だが、それだけではなくニューノーマルの考え方で多くの経営者を刺激し、生き残るためのビジネスのほぼ全面的な再構築へと向かわせた。在宅を強いられた消費者たちの、せめてお気に入りのカクテルバーに逃れたいという願いを見て取った一部の業者は、そのニーズに応えようと、ドリンクやパッケージ、配送方法の開発にすぐに取り掛かった。この努力により、飲み物の面では、味と一貫性のためにカクテルをバッチ処理*するという、数年来の取り組みが強化されることとなった。

*バッチ処理=ある一定量の作業工程を一括処理すること

カクテルのパッケージングと配送に関しても、より優れた機器が登場し、飲み物について、また飲み物を安定させる方法についてより慎重なアプローチがとられるようになった。スピリッツ、ベルモット、リキュールやエールのプレミックスにのみバッチ処理が用いられていた数年前とは異なりロックダウンが始まる数日前にオープンしたアムステルダムの「ダッチ・カレッジ」(Dutch Courage)などのバーでは、適切な保存方法によれば、サワーやフィズを含むあらゆる種類のデリバリー用カクテルを大量に用意できることが理解されていた。バッチ処理は、ほとんどの市場ですでに確立されたトレンドであったかも知れないが、今や現実的な手法となったのである。

驚くべきことに、多くのバーでは、パッケージされたカクテルの価格を、店内で提供されるカクテルの価格よりもわずかに低くするか、あるいは同程度に設定することができていたのだ。昨今、安価なレディ・トゥ・ドリンク(RTD)カクテルが増えてはいるが、このバッチ処理されたカクテルの成功は、消費者の一部が抱いている、お気に入りのバーやレストランに対する信頼感やブランドとしての忠誠心について、多くのことを語っているように思う。またそれは、贔屓にしている店を長期的に応援するために、短期的には少し多めの額を払って商品を購入するという責任感の表れでもあるだろう。ニューノーマルで、もしお気に入りのバーがすべて閉業してしまっているとしたら、その世界で喜んで生きていこうと思えるだろうか?

贔屓のお店やブランドへのこうした忠誠心は、事業範囲を広げることとなったバーやレストランにとって、さらなるメリットとなっている。家庭用のカクテルミックスを販売することで、バーはこれまで手つかずだった層から収益を得ることができるだけでなく、自店のブランドを初めて顧客の家庭へと持ち込むことができるのだ。一部のバーでは、家庭に提供するサービスが、カクテルから食べ物やグラス、Tシャツなどにも広がっている。たとえ家庭用の販売が利益額に達していなくても、自らのブランドを家庭に浸透させることは、世界が通常の状態に戻った際に取引上の強みとなる可能性が高い。こうしたブランド浸透効果は、規制が解除されて賑わいを見せている場所では、既に現実になっている。また、店舗の営業が再開したからといってデリバリー事業が終わるとは限らない。

いくつかの都市では、宅飲み人気に火がつき、引き続き活発な需要が残っている。オーストラリアのシドニーにある「アールズ・ジューク・ジョイント」(Earl’s Juke Joint)は、2020年にカクテルのデリバリー開始のため人材と設備に多額の投資を行ったが、無事に営業を再開した今でも、かなりの収益を上げている。ロンドンでは、「スリー・シーツ」(Three Sheets)のマックスとノエル・ヴェニング(Max and Noel Venning)の兄弟が、カクテルとワインのデリバリービジネス「トップ・キュヴェ」(Top Cuvee)を迅速に立ち上げ、現在ではバー本体をはるかに上回る売上を上げている。

営業再開後の店舗では、衛生基準と顧客の安全の確保が重要な使命となっている。世界の多くの地域で、この使命はバースツールの撤去、プラスチック製のスクリーン設置(過去5年間に節約したストローよりも多量のプラスチック廃棄物を生むかもしれないにしても)、フェイスカバー、紙のメニューの不使用、そして最悪の場合には店内に入ることすら禁じてしまう、といった事もある。これらの対策は、もし実行しなければ優れたカクテルバーに来店する体験そのものが損なわれることになってしまう性格のものだ。対策の中には法律で義務付けられているものもあるが、経営者たちは、顧客を安心させるだけでなく、新しい試みとして喜んでえるような効果的な対策もまた生み出している。

メニューのデジタル化は、モバイル技術の進歩により、より良いユーザー体験を提供する新しいサービス方法と言える。店舗によっては、紙のメニューをデジタル化するだけで十分な場合もあるが、一部のバーでは、デザイン会社と協力してインタラクティブなメニューアプリを作成し、ドリンクの詳細情報にアクセスしたり、高解像度の画像や動画を提供したりもしている。消費者の衛生意識が高まる中、人との接触を最小限にすることを重視する来店客もいる。飲み物を選んで注文できるアプリがあれば、デリバリー以外は人の手を介さずに飲み物を提供することができ、そのようなニーズに適した方法となる。こうしたニーズは、ニューノーマルで顕在化したものだが、今後も消え去ることはないのかも知れない。テクノロジーは、未来のバーやサービスにとって避けて通れない要素だ。伝統的なスタイルの店舗では、本物らしさを保つために新しいテクノロジーの導入を回避することもあるかもしれないが(紙幣や人間のウェイターを使うことすら懐かしさのアピールになる時代がもうすぐ来るかもしれない)、ほとんどの店舗では、新技術の導入は重要かつ包括的なものになるだろう。

同じことがマスクにも言える。マスクの着用は少なくとも西洋では非常に新しい習慣だが、今ではまったく普通になっている。マスクを忘れずに持ち歩くことの不便さや、着用することの対人的な気まずさを乗り越えて、今やマスクの着用は、多くのバーで、顧客の安心感のためにスタッフの身体的快適さを進んで犠牲にしていることを示す、スタッフの服装の一部となっているとも言えるだろう。経営者たちはビジネスを維持し、スタッフと顧客を守るために行動を起こさざるを得なくなった。彼らの取った対策の効果は一時的なものと思われているが、ホスピタリティ面に見られるいくつかの変化は、何十年も続くものとなっていくかもしれない。それは悪いこととは限らない。新しく生まれた常識を土台にイノベーションを起こす新たなチャンスでもあるからだ。

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